学術メンタルヘルス
思春期の低い自尊心への介入
思春期には、友人関係、学業、外見、進路、家族との関係などを通して、「自分はどんな人間なのか」「自分には価値があるのか」を強く意識するようになります。その過程で、自分を厳しく評価したり、自信を失ったりすることは珍しくありません。
心理学の研究では、自分自身を全体としてどの程度価値あるものと評価するかに関わる概念を self-esteem(自尊感情) と呼びます。本稿では、研究でself-esteemとして測定されたものを原則「自尊感情」と表記します。「自己肯定感」「自己評価」「自己効力感」などは日常語では近い意味で使われることがありますが、研究上は必ずしも同じ概念ではありません。日本でもRosenberg Self-Esteem Scale(RSES)を用いた研究が広く行われていますが、尺度の得点だけで精神疾患を診断したり、その人自身の価値を判断したりすることはできません。
低い自尊感情とうつ・不安は「関連する」が、同じものではない
思春期の低い自尊感情は、抑うつや不安などの心理的問題と関連します。298研究、約27万人の青年を統合したメタ解析では、self-esteem/self-conceptが低いほど抑うつが強いという比較的大きな関連が報告されています。縦断研究を統合した別のメタ解析でも、低いself-esteemが後の抑うつを予測する傾向が示されています。
ただし、ここには重要な注意があります。
「関連がある」ことと、「低い自尊感情がうつ病の原因である」ことは同じではありません。
また、
「自尊感情が改善した」ことと、「うつ病や不安症が治療された」ことも同じではありません。
いじめ、孤立、家庭環境、学校での困難、身体疾患、発達特性、精神症状などがself-esteemと互いに関係している可能性があります。そのため、自尊感情だけを一つの治療標的として切り離さず、その人全体の状況を見る必要があります。
ADHDがあると必ず自尊感情が低いわけではありません
ADHDのある子ども・青年については、定型発達群より全般的なself-esteemが平均的に低いというメタ解析があります。2024年の研究では、global self-esteemの群間差はHedges’ g=0.46でした。
しかし、これは集団平均の話です。ADHDのある人すべてが自分を否定的に評価しているわけではありません。学業、対人関係、行動など、どの領域に困難を感じるかにも個人差があります。
そのため、「ADHDだから自己肯定感が低い」と決めつけるのではなく、本人がどの場面で傷ついた経験をしているのか、周囲からどのような評価や支援を受けてきたのかを具体的に確認することが大切です。
まず確認したいのは、本人ではなく「環境」に問題がないか
自尊感情が低いとき、すぐに「考え方をポジティブにしよう」と働きかけるのは適切でない場合があります。
たとえば、いじめや仲間外れが続いている、家庭内で暴力や強い否定を受けている、発達特性を理解されず繰り返し叱責されている、学習上の困難に適切な配慮がない、といった状況では、本人の自己評価だけを変えることは問題の本質的な解決になりません。
思春期の研究では、いじめ被害は低いself-esteemや抑うつ・不安などの内在化症状と関連しています。したがって、心理的な介入を考える前後には、本人が安全で、尊重され、適切な支援を受けられる環境にいるかを確認することが重要です。
CBTには有望な初期エビデンスがあります
認知行動療法(CBT)は、単に「ネガティブな考えをポジティブな考えに変える」方法ではありません。
どのような状況で「自分には価値がない」「どうせ失敗する」といった考えが生じるのか、その考えが気分や行動にどう影響しているのかを整理し、考えの根拠を検討したり、実際の行動を通して予測を確かめたりします。目標は、無理に楽観的になることではなく、より柔軟で現実に即した自己理解と行動の選択肢を増やすことです。
思春期の低い自尊感情を直接対象にした研究として重要なのが、BergらによるスウェーデンのパイロットRCTです。15~19歳52人を7週間のセラピスト支援付きインターネットCBTと待機群に無作為に分けたところ、治療終了時のRSESでは介入群が待機群より改善し、群間効果量はCohen's d=1.18、95% CI 0.44–1.92でした。抑うつ、不安、生活の質などにも改善が報告されています。
これは注目すべき結果ですが、慎重に解釈する必要があります。
参加者は52人と少なく、対照条件は別の心理療法ではなく「治療を待つ」条件でした。また、重度の抑うつ、希死念慮、物質使用問題や一部の重い精神疾患がある人は除外されていました。さらに、このプログラムは認知再構成だけではなく、セルフ・コンパッション、自律性、対人関係、アサーティブネスなども含む複合的な内容でした。
したがって、「CBTなら一般に d=1.18の大きな効果がある」と考えることはできません。現時点では、低い自尊感情を対象とした特定のICBTプログラムについて、有望な初期結果があるという位置づけが適切です。
マインドフルネス関連介入は「有望だが、単独での有効性は未確立」
マインドフルネスでは、現在の経験に注意を向け、浮かんだ考えや感情をすぐに正しい・間違いと判断せず観察する練習を行います。
自己批判的な考えそのものを消そうとするのではなく、「今、自分を強く責める考えが浮かんでいる」と気づき、その考えにのみ込まれず次の行動を選びやすくすることが一つの狙いです。
2024年、タイの15~18歳70人を対象としたパイロットRCTでは、8週間のオンラインMBSIプログラムによってself-esteem、mindfulness、resilienceの改善が報告されました。
ただし、この介入はマインドフルネスだけではありません。ACTの中核的な要素も組み込まれた複合プログラムでした。また、対照は待機リストで、脱落率は25.7%でした。
そのため、「マインドフルネスそのものが自尊感情を高めた」と特定することはできません。また、3か月後まで差がみられたことから、何年にもわたる長期効果まで証明されたわけではありません。
2026年のAHRQ系統的レビューでも、子ども・青年のマインドフルネス関連介入には一部の短期的利益がみられる一方、研究の質や介入内容のばらつき、不精確性、長期データ、有害事象評価の不足が指摘されています。したがって、有望だが確立したself-esteem治療とはまだいえないというのが妥当です。
「values affirmation」と肯定文の反復は別物です
「アファメーション」という言葉には注意が必要です。
研究で用いられる values affirmation は、「自分は素晴らしい」「自分は愛されている」といった言葉を繰り返す方法とは異なります。自分にとって重要な価値について考えたり、その理由を書いたりする課題です。
Yanらは中国112校の中高生2,234人を対象にvalues affirmationを無作為化試験で検討しました。その結果、self-esteem、生活満足度、肯定的な精神的健康などには改善がみられました。
一方、抑うつ、不安、孤独の症状尺度では明確な効果はみられませんでした。
ここで、「values affirmationにはうつ病を治す力がない」とまで解釈するのは適切ではありません。この研究は、うつ病や不安症と診断された患者を対象とする治療試験ではなかったからです。
正確には、
「学校集団へのvalues affirmationはwell-beingやself-esteemには利益を示したが、同じ試験では抑うつ・不安・孤独の症状尺度への明瞭な効果は確認されなかった」
と表現すべきです。
そして、うつ病・不安症を治療する方法としてvalues affirmationを推奨できる根拠も、現時点ではありません。
「自分は素晴らしい」と繰り返せばよいわけではありません
positive self-statementsについては、少し異なる研究があります。
成人を対象としたWoodらの実験では、もともとself-esteemが低い人が、自分の実感から大きく離れた強い肯定的自己文を繰り返した場合、比較条件よりその直後の気分や自己評価が悪化する条件がみられました。
これは興味深い結果ですが、成人における短時間の実験であり、「肯定的な声かけは危険」「思春期でも同じ害がある」と一般化することはできません。また、前述のvalues affirmationとも別の介入です。
実生活では、本人の気持ちを否定して「そんなことない、あなたは最高」と押し返すより、本人が経験した具体的な努力、得意なこと、大切にしている価値について一緒に整理する方が自然でしょう。ただし、これも精神疾患の治療の代わりになるという意味ではありません。
アサーティブネス単独の治療効果はまだ確立していません
アサーティブネスは、自分の意見、感情、希望を、相手の権利も尊重しながら表現するコミュニケーション技能です。
2023年のイランのRCTでは、一つの公立女子高校に通う15~16歳96人を対象に、問題解決スキルとアサーティブネスを組み合わせた六回の訓練が行われました。90人が最終解析され、CSEIの自尊感情得点は介入群で24.79から29.36へ、対照群では25.01から25.25へ変化しました。精神的健康指標にも差が報告されています。
しかし、この研究から「アサーティブネス療法が低い自尊感情に有効」とまではいえません。
第一に、参加者は低いself-esteemがあることを理由に選ばれたわけではありません。第二に、問題解決訓練とアサーティブネスを一緒に行っているため、どちらが結果に寄与したか分かりません。第三に、一校の女子のみを対象とした小規模・短期間の研究で、参加者は盲検化されていませんでした。
したがって、現時点では、アサーティブネスを含む学校ベースの複合ライフスキル教育に、自尊感情を改善する可能性がある程度に位置づけるのが適切です。
では、どの介入を選べばよいのでしょうか
研究結果だけを見ると、CBT、マインドフルネス関連介入、values affirmation、アサーティブネス関連プログラムのいずれにも何らかの肯定的結果があります。
しかし、この四つを「同じ程度に有効な四つの治療」と考えるのは適切ではありません。
CBT研究は「低い自尊感情」を直接対象にしていますが小規模なパイロット試験です。マインドフルネス研究はACTを含む複合介入です。values affirmation研究は大規模ですが一般学校集団でのwell-being介入です。アサーティブネス研究は問題解決訓練との複合教育で、低self-esteemの人だけを治療した試験ではありません。
つまり、現段階で最も重要なのは、「自尊感情を上げる方法を一つ選ぶ」ことではなく、
なぜ本人が自分を低く評価しているのか、何に困っているのか、精神症状や機能障害があるか、周囲の環境に改善すべき問題がないかを確認したうえで支援を組み立てることです。
自傷・「死にたい」という気持ちがある場合は別に考えます
自尊感情の低さと、自傷や希死念慮は同じものではありません。
「自分には価値がない」という思いが強く、さらに、
- 自分を傷つけている
- 「死にたい」「消えたい」と考えている
- これまでできていた学校生活や日常生活が大きく損なわれている
- 強い抑うつや不安が続いている
といった状態がある場合には、self-esteem向上のセルフヘルプだけで対応するべきではありません。
厚生労働省は、自傷について、必ずしも自殺企図と同じではない一方、繰り返される場合には長期的な自殺リスクにも注意が必要であり、専門家への相談が重要だとしています。「消えてしまいたい」といったサインがある場合も、できるだけ早く保護者、教員、スクールカウンセラー、医療・相談機関などへつなぐことが勧められます。
危険が差し迫っていると考えられるときには、一人にせず、安全を確保し、速やかに緊急の専門的支援につなぐことを優先します。
厚生労働省は、精神保健福祉センター、保健所・保健センターなど、若者や家族が利用できる地域の相談先も案内しています。
現時点での結論
思春期の低い自尊感情に対する研究は進んでいますが、現時点で「この方法を行えば確実に自尊感情が改善し、うつや不安も予防できる」といえる単一の方法はありません。
低い自尊感情を直接対象にしたCBTには有望な初期データがあります。マインドフルネス・ACT関連プログラム、values affirmation、アサーティブネスを含むライフスキル教育にも肯定的な研究がありますが、それぞれ研究対象と介入内容が違います。
そして最も大切なのは、自尊感情の低さを本人だけの「考え方の問題」と考えないことです。
本人の感じ方を尊重しながら、いじめ、家庭、学校、孤立、学習上の困難、発達特性、精神症状なども確認し、必要なところに働きかけることが重要です。
目標は、無理に「自分を好きにさせる」ことではありません。自分を極端に価値のない存在と決めつけず、困ったときに助けを求め、現実の生活の中で安全に選択肢を増やしていけるよう支えることです。
この記事の監修者
メンタルクリニック下北沢
院長・精神保健指定医
堀江 宇志
- 【所属学会】
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- 日本精神神経学会
- 日本認知症学会
- 日本臨床睡眠学会
- 日本学校メンタルヘルス学会
- 【経歴】
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京都大学理学部入学後、山口大学医学部に転学。卒業後、成康会堤小倉病院、FLATS ヒルサイドクリニック、八王子メンタルクリニック院長、佐藤メンタルクリニック副院長、下北沢メンタルケアクリニック院長等を経て現職。