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PTSDとPTGを正しく理解する:トラウマ後の反応は「障害か成長か」の二択ではない

強い恐怖や危険を伴う出来事を経験した後、人の反応は一様ではありません。眠れない、思い出したくないのに出来事が浮かぶ、警戒心が強くなる、といった反応が一時的に現れることもあります。時間とともに自然に軽快する人もいれば、症状が長く続いて生活に大きな支障をきたし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断される人もいます。外傷を経験したすべての人がPTSDになるわけではありません。

その一方で、大きな困難を経験した後に、「人とのつながりを以前より大切に感じるようになった」「人生の優先順位が変わった」「自分にできることを再発見した」などの肯定的変化を本人が感じることがあります。心理学では、このような現象をPTG(posttraumatic growth、心的外傷後成長)と呼ぶことがあります。重要なのは、PTSDとPTGは「障害になるか、成長するか」という二者択一ではないという点です。

PTSDとは何か

PTSDは医学的な診断です。DSM-5-TRでは、実際または差し迫った死、重傷、性暴力などへの一定の形での曝露を前提として、侵入症状、回避、考え方・気分の陰性変化、覚醒や反応性の変化を評価します。症状が1か月を超えて続き、強い苦痛や日常生活上の支障を伴うことなども診断上重要です。

WHOのICD-11ではPTSDをやや簡潔に定義し、極度に脅威的・恐ろしい出来事の後に、出来事が今起きているように感じられる再体験、出来事を思い出させるものの回避、今も危険が迫っているように感じる持続的な脅威感を中核症状としています。生活機能への影響も診断上重要です。

日常会話では「トラウマ」という言葉が幅広いつらい体験を意味することがありますが、DSMやICDでPTSDを診断するときの外傷曝露にはより具体的な要件があります。そのため、「つらい経験がある=PTSD」「PTSDの診断基準を満たさない=苦しみは軽い」という意味ではありません。診断名にかかわらず、苦痛や生活への影響が大きければ相談する価値があります。

PTGは「PTSDを克服した証拠」ではない

PTGを測定する代表的尺度であるPosttraumatic Growth Inventory(PTGI)は、他者との関係、新たな可能性、個人的強さ、精神的変化、人生への感謝などについて、外傷後に本人がどの程度肯定的な変化を感じているかを尋ねます。日本語版PTGIも研究に用いられています。

しかし、この「成長したという感覚」と、外傷前から外傷後まで実際に測定された心理的変化は同じものとは限りません。前向きに外傷前後を測定した研究では、PTGIで報告された成長と実測された変化がほとんど関連しなかった例があります。大規模な縦断研究のメタ解析でも、人生上の大きな出来事の後に変化が観察されても、その変化を出来事そのものの結果と断定できない場合が多いことが示されています。

したがってPTGは、「トラウマによって人は必ず強くなる」という証拠でも、「成長を感じない人は回復していない」という指標でもありません。自分が経験から何かを得たと感じることには本人にとって大切な意味があり得ますが、それを医学的な治癒判定と同一視するべきではありません。PTG研究には測定方法そのものをめぐる活発な議論が続いています。

PTSD症状とPTGは同時に存在し得る

研究では、知覚されたPTGとPTSD症状は単純な反対関係ではありません。代表的なメタ解析では両者の間に小~中程度の正の関連があり、直線よりも曲線的な関係が示唆されました。日本人を対象とした研究でも、PTGI-J得点と外傷後ストレス症状が正に関連していました。

つまり、「成長を感じているから苦しんでいない」とは限りません。ある人が人間関係や価値観に肯定的変化を感じながら、同時に悪夢、フラッシュバック、回避、過覚醒などで苦しむこともあり得ます。反対に、PTGをほとんど感じなくても、症状が改善し、仕事や学校、家庭生活を取り戻していく人もいます。PTGの有無だけで回復を判定することはできません。

何がその後の経過を左右するのか

PTSDの発症や経過は一つの性格特性によって決まるものではありません。出来事の性質、過去の外傷経験、現在の安全性、身体・精神疾患、周囲から得られる支援など、多くの要因が関係します。American Psychiatric Associationも、過去の外傷や支援の乏しさなどをPTSDリスクと関連する要因として挙げています。

性格研究では神経症傾向などと精神症状との関連が報告されていますが、これは「性格がネガティブだからPTSDになる」という意味ではありません。統計的な関連を個人の運命や責任に読み替えることはできません。

社会的支援とPTGについては、2023年のメタ解析で中程度の正の相関が示されています。ただし、相関関係から「支援がPTGを生じさせる」と因果関係まで断定することはできません。支援は孤立を減らし、生活上の困難への対応を助けるという意味で重要ですが、支援の成功を「PTGが起きたかどうか」で評価する必要はありません。

また、一部の研究では「ある程度の過去の逆境を経験した人」の後の適応が良好だったという関連が報告されていますが、これは「適度なトラウマは人を強くする」「逆境を経験した方がよい」という意味ではありません。虐待、暴力、災害などの有害な経験を成長のために必要なものとして肯定する科学的根拠はありません。

脳画像からPTSDになる人、PTGになる人を見分けられるのか

現在のところ、そのような臨床検査はありません。PTSDでは集団平均として海馬体積などの脳画像上の差が研究されていますが、こうした所見から一人の患者のPTSDを診断したり、その後の人生を予測したりすることはできません。

PTGについても、前頭部の脳活動や背外側前頭前野の構造変化との関連を報告した研究がありますが、小規模で探索的です。たとえば災害後のDLPFC研究はMRIデータ26人という規模でした。現時点で「PTG特有の脳状態」が確立されているわけではありません。

PTSDには有効な治療がある

PTSD症状が強く続く場合、エビデンスの蓄積した心理療法があります。2025年のAmerican Psychological Associationガイドラインでは、認知処理療法(CPT)、持続エクスポージャー療法(PE)、トラウマ焦点化認知行動療法が特に強く支持されています。認知療法、EMDR、ナラティブ・エクスポージャー療法などにも推奨があります。

2023年VA/DoDガイドラインではCPT、PE、EMDRを強く推奨し、個人心理療法を薬物療法より優先しています。WHOもトラウマ焦点化CBTとEMDRをエビデンスのある心理療法として挙げています。各ガイドラインで推奨の強さが多少異なるため、実際の治療では症状、希望、治療歴、併存症、利用可能性を考えて選択します。

薬物療法も選択肢になります。American Psychological Associationの2025年ガイドラインではsertraline、paroxetine、fluoxetine、venlafaxineが条件付きで提案されています。日本でもNCNPはPTSDに対する心理療法と薬物療法の双方について情報を提供しています。薬の適否、種類、用量、継続期間は自己判断せず、医師と相談する必要があります。

治療の目的は「成長させること」ではない

PTSD治療の第一の目的は、安全を確保し、苦痛やPTSD症状を減らし、睡眠、仕事、学業、人間関係などの生活機能を回復していくことです。PTGを起こすことは、主要なPTSD診療ガイドラインが定める必須の治療目標ではありません。

治療の中で「この出来事によって何を大切にするようになったか」「自分の価値観は変わったか」と考えることが本人にとって意味を持つ場合はあります。しかし、それは本人が望む場合に、本人の言葉で扱われるべきです。治療者や家族が「この経験にも意味があったはず」「これを機に成長しよう」と要求してはいけません。

急性期には、現在も続いている暴力や危険、自傷・自殺リスク、睡眠や身体状態、生活環境などを評価することが重要です。ただし、すべての患者が長期間「完全に安定」するまでトラウマ焦点化治療を開始してはいけない、という意味ではありません。適応を評価し、治療者と相談しながら、本人の希望を踏まえてエビデンスに基づく治療を選択します。

文化や価値観は一人ひとり異なる

人が苦痛をどう説明するか、誰に助けを求めるか、宗教や家族をどう位置づけるかには、文化、家庭環境、世代、地域、信仰、個人の経験などが影響します。しかし「この文化の人はこう反応する」と決めつけることは適切ではありません。DSM-5-TRの文化的定式化面接も、所属集団から本人の考えを推測するのではなく、本人に文化的背景や問題の理解について尋ねることを重視しています。

「成長しなくてもよい」ことが最も大切

トラウマを経験した人に、苦しみの中から価値や教訓を見つける義務はありません。以前より強くなる必要も、経験を肯定的に語る必要もありません。PTGを感じる人もいれば、そうでない人もいます。それだけで治療の成功や失敗、人としての強さを判断することはできません。

回復とは、必ずしも「トラウマのおかげで成長した」と言えるようになることではありません。症状が少し軽くなる、眠れるようになる、安全な生活を取り戻す、大切な人と過ごせる、仕事や学校に戻る、自分なりの生活を再び選べるようになる――それらも十分に意味のある回復です。

外傷後の症状が1か月以上続く場合、期間が短くても苦痛や生活上の支障が非常に大きい場合、うつ、アルコール・薬物の問題、自傷・自殺に関する考えなどがある場合には、精神科・心療内科その他の適切な医療機関への相談を検討してください。切迫した自傷他害の危険がある場合は、通常の予約を待たず地域の救急・緊急医療につながることが必要です。PTSDは治療可能な疾患です。

この記事の監修者

メンタルクリニック下北沢

院長・精神保健指定医

堀江 宇志

【所属学会】
  • 日本精神神経学会
  • 日本認知症学会
  • 日本臨床睡眠学会
  • 日本学校メンタルヘルス学会
【経歴】

京都大学理学部入学後、山口大学医学部に転学。卒業後、成康会堤小倉病院、FLATS ヒルサイドクリニック、八王子メンタルクリニック院長、佐藤メンタルクリニック副院長、下北沢メンタルケアクリニック院長等を経て現職。