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マインドフルネス 今この瞬間の経験に意図的に注意を向け、評価せずに観察する心の在り方

マインドフルネスとは、一般に、今この瞬間に生じている感覚・思考・感情へ意図的に注意を向け、それをすぐに良い・悪いと評価せず観察する心の訓練を指します。仏教瞑想に歴史的ルーツがありますが、医療では1970年代末以降、ジョン・カバットジンらによるMBSR(マインドフルネスストレス低減法)、その後はうつ病再発予防を目的に開発されたMBCT(マインドフルネス認知療法)など、宗教実践とは区別された構造化プログラムとして研究されてきました。

ここでまず大切なのは、「マインドフルネス」という言葉が非常に広いことです。研究で評価されている8週間のMBSRやMBCTと、数分間の呼吸法、スマートフォンアプリ、独学の瞑想を同じものとみなすことはできません。ある治療プログラムで効果が示されたからといって、あらゆる瞑想法に同じ効果があるとは限らないのです。

では、メンタルヘルスにはどの程度効果があるのでしょうか。

代表的な研究の一つが、Goyalらによる2014年の系統的レビューです。47件の臨床試験、計3,515人を解析したところ、マインドフルネス瞑想プログラムは、活動性のある対照介入と比べ、不安症状では効果量0.38、抑うつ症状では0.30、痛みでは0.33程度の改善を示しました。これは「効果がない」とは言えない一方、平均的には小さい改善と考えるのが適切です。ストレスや健康関連QOLについては、より不確かな結果でした(Goyal et al., 2014)。

ときどき「マインドフルネスの効果は抗うつ薬と同程度」と説明されることがあります。しかし、異なる研究で得られた効果量を単純に比較することはできません。対象者の重症度、比較群、評価尺度、治療期間が異なるからです。また、マインドフルネスに薬物のような薬理学的副作用がないことと、有害な体験がまったく起こらないことは別問題です。したがって、「薬と同じくらい効き、副作用がない」という説明は現在のエビデンスを超えています。

一方、マインドフルネス関連治療の中でも特に根拠がしっかりしているのが、反復性うつ病の再発予防としてのMBCTです。Kuykenらが9件のランダム化比較試験を個人単位で再解析した研究では、60週間の追跡中に再発した割合はMBCT群38%、対照群49%で、再発までのリスクは約31%低下していました(HR 0.69)(Kuyken et al., 2016)。英国NICEも、寛解後に再発リスクが高く、抗うつ薬を継続したくない人などで、集団CBTまたはMBCTを再発予防の選択肢としています。

ただし、これを「MBCTなら抗うつ薬をやめてよい」と解釈してはいけません。維持抗うつ薬とMBCTを直接比較した試験では、MBCTが明確に優れていたわけではありません。再発歴、これまでの治療反応、薬の副作用、患者本人の希望を踏まえ、減薬する場合も医療者と計画的に行う必要があります。

不安症についても、一定の有効性があります。古い研究では大きめの効果量が報告されてきましたが、その一部は「治療前と治療後を比べただけ」の数字であり、自然経過や期待効果を除外できません(Hofmann et al., 2010)。より重要なのは、成人の不安症を対象に、構造化された8週間のMBSRをエスシタロプラムと直接比較したRCTで、主要な不安症状についてMBSRの非劣性が示されたことです(Hoge et al., 2022)。

それでも、「マインドフルネスはCBTや薬物療法と一般に同等」とまでは言えません。ある研究で二つの治療の間に「統計学的有意差がなかった」ことは、両者が同等である証明にはならないからです。実際、現在のNICEの全般不安症・パニック症ガイドラインでは、機能障害の大きい患者に対する高強度心理療法としてCBTや応用リラクセーション、または薬物療法が中心で、マインドフルネスは標準的第一選択として挙げられていません。したがって、本人の希望や利用可能性に応じた選択肢の一つと考えるのが妥当です。

PTSDについてはさらに慎重さが必要です。軍人・退役軍人を対象にしたメタ解析では、マインドフルネス瞑想に小程度のPTSD症状改善が報告されています。しかし、現在のVA/DoDガイドラインで治療の中心となるのは、認知処理療法(CPT)、持続エクスポージャー療法(PE)、EMDRなど、トラウマに焦点を当てた心理療法です。マインドフルネスは、それらを希望しない・受けられない場合や、補助的な症状管理法として検討する余地がありますが、標準治療を置き換える根拠は十分ではありません。

慢性疼痛でも似た構図があります。研究では、痛みの強さそのものに対する効果は概して小さく、むしろ抑うつ、QOL、痛みへの反応の仕方といった心理社会面で利益が得られる可能性があります。ただし「慢性疼痛」にはさまざまな病態が含まれ、試験結果のばらつきも大きいため、一律に有効とは言えません。NICEは慢性一次性疼痛に対するマインドフルネスを、なお臨床的・費用対効果を検討すべき研究課題としています。したがって目的は「痛みを消す」ことより、包括的な疼痛管理の中で生活機能や痛みへの対処を支援することに置くべきでしょう。

不眠については、優先順位が比較的明確です。慢性不眠症の第一選択となる非薬物治療は不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)です。米国睡眠医学会は多要素CBT-Iを強く推奨しており、睡眠衛生指導だけを単独治療として用いることは推奨していません。マインドフルネスは非特異的な対照群より睡眠の質を改善する研究がありますが、CBT-Iを置き換えるほどの根拠はありません。CBT-Iを受けにくい場合や、不安・反すうなどが残る場合に、補助的に試みるという位置づけが現実的です。

ADHDに対する研究も増えています。2026年に発表された小児・青年のRCTメタ解析では17試験、2,991人を統合し、マインドフルネス介入は全体として小~中程度の改善を示しました。しかし研究間のばらつきは非常に大きく、不注意、多動・衝動性、実行機能などで効果の大きさも異なりました。現在の診療ガイドラインでは、マインドフルネスはADHDの標準治療として確立していません。薬物療法、環境調整、ADHDに焦点を当てた心理社会的介入を基本とし、本人が希望する場合に補助療法として検討するのが適切でしょう。

そして、マインドフルネスは「自然な方法だから安全」とは限りません。瞑想中に不安が強くなる、抑うつ気分が増す、過去の記憶が鮮明になる、知覚や自己感覚が変化するなどの不快な体験が報告されています。系統的レビューでは瞑想関連有害事象の統合頻度は約8%でしたが、研究方法によって数値は大きく異なります。能動的に詳細を質問すると、より多くの不快体験が把握されます(Farias et al., 2020; Britton et al., 2021)。一方、こうした不快体験の多くを重篤な医学的有害事象と同一視することも適切ではありません。

精神病性障害やトラウマ歴がある人についても、「マインドフルネスは危険」と一律に考えるべきではありません。精神病性障害向けに調整されたマインドフルネス介入のRCTでは、明瞭な有害事象増加は現在まで確立していません。ただし安全性データそのものが十分とはいえず、強い解離、躁状態、急性精神病症状、自殺リスクなどがある場合には、自己判断で長時間・高強度の瞑想を開始するより、担当医や訓練を受けた治療者と相談する方が安全です。

結局のところ、マインドフルネスを「効くか、効かないか」だけで評価するのは適切ではありません。誰に、何の目的で、どのプログラムを、何と比較して用いるかによって答えは変わります。現在もっとも確かな用途の一つは反復性うつ病の再発予防としてのMBCTで、不安症では構造化MBSRも選択肢となり得ます。一方、PTSD、慢性疼痛、不眠、ADHDでは、標準治療を置き換えるものではなく補助的な位置づけが中心です。

「副作用がなく、誰にでも効く心のトレーニング」でもなければ、「科学的根拠のない単なる気休め」でもありません。効果は平均的には小~中程度で、効かない人もおり、有害な体験も起こり得ます。期待できる利益と限界を説明し、患者本人の価値観や治療目標に合わせ、必要に応じて確立した治療と組み合わせる――それが、現在のエビデンスからみたマインドフルネスの最も妥当な位置づけです。

この記事の監修者

メンタルクリニック下北沢

院長・精神保健指定医

堀江 宇志

【所属学会】
  • 日本精神神経学会
  • 日本認知症学会
  • 日本臨床睡眠学会
  • 日本学校メンタルヘルス学会
【経歴】

京都大学理学部入学後、山口大学医学部に転学。卒業後、成康会堤小倉病院、FLATS ヒルサイドクリニック、八王子メンタルクリニック院長、佐藤メンタルクリニック副院長、下北沢メンタルケアクリニック院長等を経て現職。