メンタルヘルス入門
2025.09.10
睡眠障害・不眠症の治し方は?原因や受診の目安を解説
睡眠不足は日中の眠気や疲労、頭痛・注意力低下などさまざまな影響を及ぼし、生活に深刻な問題を引き起こします。原因も多岐にわたり、生活習慣の乱れやストレスだけではなく、身体的な病気が関与する場合もあるため、悩んでいる人は適切な科の受診を検討し、治療を開始することをおすすめします。
そのためには、医療機関での治療方法やセルフケアの方法などを知っておくとよいでしょう。
この記事では、治療のポイントや睡眠障害が続くことの問題点、セルフケアの方法、治療や日常生活で注意しておきたいことなどについて紹介します。睡眠不足、不眠症など睡眠の悩みがある人は、ぜひ参考にしてください。
医療機関での睡眠障害・不眠症の治し方
医療機関ではまず問診や検査で不眠の原因を特定し、その結果に基づいて治療方針を決定します。
ここでは、医療機関でどのように睡眠障害や不眠症に対応するのかについて紹介します。
問診や検査による原因の特定
まず、医師は詳細な問診で睡眠状況や日中の症状、生活習慣を確認します。
患者さんに1~2週間程度の睡眠日誌を記録してもらったり、ピッツバーグ睡眠質問票のような検査を行ったりして、症状の評価を行います。睡眠日誌、ピッツバーグ睡眠質問票で注目され、記録が推奨されるのは以下のような項目です。
- 起床時間
- 入眠時間
- 睡眠中に目が覚め、起きていた時間
- 目が覚めた時間
- 起床した時刻
- 起床時の気分
- 睡眠薬の服用時間
- 昼寝、居眠り、眠気の時間
- その日にあったこと など
このほか、必要に応じて血液検査や心電図、脳MRI、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や反復睡眠潜時検査(MSLT)などの検査が行われることも多いです。
このような検査の結果を踏まえ、睡眠障害の診断と適切な治療方針が決定されます。
薬物療法による症状の軽減
薬物療法では、症状に合わせた薬が処方されます。現在の不眠症治療の主流は睡眠薬を用いた薬物療法です。
具体的には以下のような睡眠薬を処方します。
- ベンゾジアゼピン系
- 非ベンゾジアゼピン系
- メラトニン受容体作動薬 など
それぞれ患者さんの症状や体質に応じて使い分けられるため、知らない薬が提案されたら説明を求めるとよいでしょう。
ただし、睡眠薬には眠気やふらつきといった副作用や依存のリスクもあります。現在用いられている大部分の睡眠薬に強い依存性はありませんが、医師の指示通りに量や休薬時期などを管理して、効果的に治療を進めましょう。
認知行動療法などの心理的アプローチ
認知行動療法(CBT-I)などの心理療法も、睡眠障害に効果が期待される治療方法です。
認知行動療法は、睡眠に悪影響を及ぼしている習慣や考え方のクセを見直し、入眠・睡眠習慣の改善を目指す方法です。慢性不眠に対して70〜80%の改善率が報告されており、慢性不眠の治療法として注目されています。
睡眠衛生(生活習慣)教育、刺激制御法、睡眠制限法、リラクゼーション法などを組み合わせた指導を受け、睡眠に悪影響を及ぼす原因にアプローチし、改善を目指します。
生活改善指導やカウンセリング
睡眠障害の治療の一環として、生活改善の指導も行われます。
例えば、就寝前のカフェイン・アルコール摂取や喫煙、過度の食事や激しい運動を避けることも、睡眠障害の対策として有効です。
また、毎日同じ時間に起床・就寝する、適度な運動・日光浴で日中に活動的に過ごすといった規則正しい生活リズムの意識も効果が期待できます。
寝具や寝室環境についても相談できるため、人によっては寝室の環境が大きく変わる可能性もあるでしょう。
必要に応じて専門家によるカウンセリングも行われます。不眠の背景にストレスや心理的要因がある場合は、精神科や心療内科でのカウンセリングが有効です。精神科の医師やカウンセラーとの対話を通じて悩みを整理し、睡眠障害の原因にアプローチして症状の改善を目指します。
治療にはセルフケアも取り入れて
治療効果を高めるためには、医療機関での治療とあわせて日常生活でのセルフケアも有効です。
ここでは、具体的なセルフケアのポイントについて紹介します。
規則正しい生活リズムを意識する
規則正しい生活習慣を保つことは、不眠症を改善するために欠かせません。
よい睡眠のためには、まず生活リズムを整え、睡眠の質を高める生活習慣を身に付けましょう。
例えば、以下のようなことが効果的です。
- 日中は太陽の光を浴びる
- 夕方以降は照明を弱くしてリラックスする
- 1日を通してメリハリのある生活リズムですごす
このような生活習慣は、睡眠の質を高め、日中の眠気を軽減し、安定した睡眠を招く効果が期待できます。
寝る前のリラックス習慣を身に付ける
寝床に入る直前まで仕事や家事に追われると脳が興奮し、入眠が難しくなります。
そのため、就寝の少なくとも1時間前には仕事や勉強をやめ、入浴や読書、深呼吸などで心身を落ち着かせる時間を持ちましょう。
例えば、以下のような方法がおすすめです。
- 瞑想
- ヨガ
- 穏やかな音楽を流す
- アロマテラピーを活用する
- ぬるめのお湯で入浴する など
特に就寝前のぬるめの入浴は、深部体温を調節し、副交感神経を優位にするため、寝つきや睡眠の質を向上させることが期待できます。
カフェインやアルコールを控える
刺激物になるカフェインやアルコールを控えることも、睡眠障害のセルフケアとしておすすめです。午後以降はカフェイン摂取を避け、就寝前はできるだけノンカフェイン・ノンアルコールの飲み物に切り替えましょう。
コーヒーやお茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインや、寝酒としてのアルコールは覚醒作用や利尿作用があります。そのため、就寝前に摂ると入眠困難や中途覚醒の原因となりやすいです。
また、寝酒は寝つきをよくすると感じる人も多いですが、夜間に目覚めてしまう原因になりやすいため、控えたほうがよいでしょう。
自分に合った寝具環境の見直し
枕や布団、寝室環境を見直すことも、睡眠に好影響をもたらすセルフケアのひとつです。
寝床内の温度は約33℃、湿度は約50%がよいとされており、夏は涼しく、冬は暖かく暗く静かな環境を整えることで、よりよい睡眠が得られるようになります。首や肩に無理のない枕、腰や体を適度に支える硬さのマットレスを選び、心地よい寝姿勢が保てるようにしましょう。
寝具には保温性・吸湿性・放湿性に優れた素材が適しており、季節や体調に合わせて厚さや種類を変えることも効果的です。
睡眠障害・不眠症が日常に及ぼす影響
睡眠障害を放置すると、日常生活に悪影響が及ぶことが少なくありません。
ここでは、睡眠障害や不眠症が日常にどのような影響を及ぼすかについて紹介します。
集中力や記憶力の低下
慢性不眠では集中力や記憶力が低下し、注意散漫になることが知られています。
結果として、以下のようなトラブルが目立つケースも多いです。
- ミスやケアレスミスが増える
- 予定などを忘れてしまう
- 試験勉強などで覚えた内容が定着しにくい
結果として、安定した家庭生活が送りにくくなったり、重要な試験に落ちたりするなど、社会的に大きな悪影響につながる恐れもあります。
不眠は脳機能の低下を起こし、日中のパフォーマンス全体を低下させてしまいます。自分で異常に気づいたら、できるだけ早めに受診しましょう。
仕事や学業への影響
睡眠不足は仕事や学業にも深刻なダメージをもたらす恐れがあります。
睡眠障害がある人は日中の作業効率が低下し、学習の効率も悪化します。重要な判断を誤ったり、期限を守れなくなるなど、仕事や学生生活でのパフォーマンス低下が問題になる可能性があるでしょう。
また、慢性不眠では事故やケガのリスクが高まるため、交通事故や作業中のトラブルなど、安全管理上の問題が生じる恐れも否定できません。
日常生活での疲労感や不調
睡眠障害は日中に強い眠気や慢性的な疲労感を感じやすくなり、身体的にも悪影響を及ぼすことが少なくありません。
頭痛や胃腸不調など身体症状の悪化も報告されており、生活の質が低下する原因になります。精神面でも情緒不安定になりやすく、イライラや不安が強くなることがあり、それが原因で周囲の人と衝突する可能性もあるでしょう。
また、不眠症はうつ病などの心の病気でも見られる症状です。万が一、うつ病だった場合には、長期化すると深刻化する恐れがあるため、早期の治療を強くおすすめします。「何かおかしい、眠れない」と感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
周囲との関係に影響が出ることも
不眠によるストレスやイライラは、家族や同僚・友人とのコミュニケーションにも影響します。
例えば、寝不足でいつも疲れた状態では周囲との会話も億劫になり、楽しい時間が持てなくなります。実際、不眠症の患者さんは「他人との関わりを楽しむ能力」が低下し、QOL(生活の質)が悪化しているケースが多いです。
このように、睡眠障害は本人の生活に留まらず、家族や職場にも負担を及ぼすことがあります。不眠が続く場合は1人で抱え込まず、周囲にも理解を求めましょう。
睡眠障害・不眠症の治し方を考える時に注意したいこと
不眠症の改善を考える際には、焦りや誤った判断を避け、自分が実践しやすい方法で取り組むことが重要です。
ここでは、睡眠障害・不眠症を治す際に注意したいことについて紹介します。
「自力で何とかしよう」と思い詰めない
睡眠障害は誰にでも起こりうるものであり、自分を責めて抱え込む必要はありません。
症状がつらくなったら、遠慮せず専門家に相談しましょう。医師やカウンセラーに悩みを話すだけでも安心感につながることがあります。
また、自己流の民間療法や薬の中断は避け、医師の指示に従いながら少しずつ対策を進めることが大切です。
不眠の原因を決めつけない
自己判断で原因を決めつけず、医師と相談しながら根本要因を探るようにしましょう。
不眠症には「これだ!」という決められた原因があるわけではなく、複数の要因が絡み合っていることが珍しくありません。例えば、寝つきが悪いからといって飲んでいた寝酒だけが悪影響を及ぼしていた原因とは限らず、仕事のストレスや生活リズムの乱れが影響していることもあります。
原因を把握するためには、受診と正確な診断、医師の適切な治療が欠かせません。
周囲に相談することも大切
1人で悩まず、あなたを心配している家族や友人にも助けを求めましょう。
家族に睡眠障害を理解してもらうことで、寝室環境を整える手伝いや生活リズムの改善に協力してもらえる場合があります。また、身近な人に話すだけで精神的な負担が軽減することもあります。最近ではオンライン相談窓口や患者会なども充実しており、同じ悩みを持つ人と情報交換するのも有効です。
しかし、どうしても「周囲の人に頼りにくい」と感じる人もいるかもしれません。その際には必要に応じて医療機関を受診し、専門家にアドバイスをもらいましょう。
改善に時間がかかることを理解する
不眠症の改善には時間がかかることが多いため、継続的な治療や対策が必要です。
典型的な慢性不眠症は数週間~数か月ほど続きやすく、場合によっては何年も続くことがあります。睡眠薬でもすぐに改善するわけではなく、治療を始めても短期間で完治するわけではありません。
しかし、焦らずにできる範囲の対策を根気強く実践していけば、症状の改善が期待できます。医師の指示を守りながら、根気よく取り組んでいきましょう。
まとめ
睡眠障害・不眠症の治療では、原因の特定を行い、薬物療法や認知行動療法、生活習慣指導などを組み合わせて対処します。
生活面では、規則正しい睡眠リズムを守り、寝る前にリラックスタイムを設ける、カフェイン・アルコールを控える、快適な寝具環境を整えるなど、セルフケアも重要です。
メンタルクリニック下北沢は、睡眠障害・不眠症にお悩みの患者さんへ寄り添いながら症状の改善を目指しています。「慢性的に眠れない」「セルフケアでの改善が難しい」「何だか睡眠がおかしい」と感じたら、早めにご相談ください。