お知らせ
2021.10.15
PTSD概念について
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)外傷後ストレス障害という疾患が最近少し話題になっています。
より具体的にはCPTSD(complex PTSD)複雑性PTSDという診断名です。
そもそもトラウマの語源はギリシャ語であり、傷、貫くを意味します。
トラウマティック・ストレスという言葉があるようにトラウマはストレスの一種ではあるが
その質において通常のストレスを はるかに凌駕するものと想定されています。
ただしやや奇妙なことに 2つの国際的診断基準、米国精神医学会作成のDSM5(2013)とWHO作成のICD11(2018)では
その外傷的"出来事” の定義の抽象度がかなり異なっています。
DSMにおいては『実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事』
ICDにおいては『極度に脅威的なあるいは恐怖となる出来事』
比較するまでもなく明らかにICD11では外傷的体験の定義がよりあいまいになっており、
逆にDSMは4よりも5になりさらに出来事の客観的性質と程度を重視したためか、より 具体的な定義となっています。
またCPTSDの概念はJ.Hermanの『Trauma and Recovery』(心的外傷と回復)1992年で 触れられているように
当初、長期反復性トラウマを契機として生じる症候群として想定されました。
つまり破滅的であり単回ではないトラウマがその症候群の外傷的出来事として想定されていたのです。
その後DSM4作成作業部会において DESNOS(他に特定不能の極度ストレス障害)という呼称でその症候群は分類されたものの、
その後のフィールドトライアルにおいてPTSDとの疾患としての分離が 困難であるなどの結論がでて、
結局独立した公式診断とはならなかった経緯があるようです。
そしてその後のICD11においてはその同じフィールドトライアルを下敷きにし、
DESNOSの定義を取り込みつつ、
さらにPTSDの症状項目も簡素化して加えた形で新たにCPTSDという疾患単位を記述しています。
その際出来事基準もICD版PTSDのそれに事実上一致させたため、
長期反復、破滅的という概念は出来事基準の必要条件ではなくなっています。
ということで、巷間言われている診断名は
DSM的トラウマであれば成立しないことは明らかであるが、ICDだと・・成立する可能性があります。
このような診断の不一致が容易に起こるということはいわゆる評価者間信頼性を大きく損なうことであり、
他の診療科ではありえないことだが、精神科においては日常茶飯事といってよい事。
実際にDSMとICDは互いに診断基準を綱引きしているような部分があり、精神科の診断についてはまた別に書こうと思います。