強迫症および関連症群
最終更新日:2025.05.29
強迫症および関連症群
♦強迫症
強迫観念(繰り返し生じ持続する思考、衝動、イメージ、侵入的で望ましくないもの)
強迫行為(繰り返される行動または心の中の行為)で特徴付けられる。
洗浄、対称へのこだわり、タブー思考、加害、ためこみなど。
発達上の標準的な没頭や習慣とは、その過剰さ、または発達上の適切な範囲を超えて存在する事によって区別される。
多くの時間を浪費し、生活上の苦痛、障害を引き起こす。
♦醜形恐怖症
身体的外見に関する知覚された欠陥欠点にとらわれている。他者には認識しづらいが、本人は過剰な見繕いなど繰り返し行動、
他者と外見を比較する精神的行為などを行い続ける。他者に対して被害関係妄想を持つことも多い。
♦ためこみ症
実際の価値とは関係なく所有物を捨てること手放すことが持続的に困難。
保存欲求、廃棄への苦痛が強い。それによって生活空間が物でいっぱいになり、部屋の使用が困難になる。
もし物の収集が強迫症における汚染、加害に対する恐怖、不完全感のような強迫観念からの結果である場合は、ためこみ症とは診断されない。
♦抜毛症
繰り返し体毛を抜き、その結果体毛を喪失する。
体毛を抜くことを減らす、やめようと繰り返し試みるが奏功しない。通常、不安、退屈な感覚が引き金となり緊張感の増加および
抜毛後の満足、快楽、安堵感などを抜毛前後に伴う。皮膚をひっかく、爪を噛む、唇をかむなど。
♦皮膚むしり症
繰り返し自分の皮膚をむしったり摘み続けてしまう障害で、抜毛症と同様に皮膚をいじる前に緊張や衝動が高まり、行為後に一時的な緩和を感じる。やはり直前に特定の思い込みがあるとは限らないが、望まない反復行為を止められない点で強迫スペクトラムに位置づけられる。
17世紀には宗教的強迫観念として報告があり、
19世紀にフランスのエスキロルらはこれを「単相狂(partial insanity)」の一種と考えた。
醜形恐怖症は1891年にイタリアの精神科医モルセッリが「醜形恐怖(dysmorphophobia)」と命名し、美的欠陥への過剰な執着として報告した。
20世紀後半以降、DSM(精神疾患の診断基準)により各疾患の定義が明確化され、
DSM-III(1980年)では強迫症が初めて公式に診断名として登場した。
米国精神医学会 (APA) のDSM-IV(1994年版)において、これら強迫関連の障害は別個のカテゴリに分類されていた。具体的には、強迫性障害(OCD)は不安障害の一種として位置づけられ、身体醜形障害(BDD)は「身体表現性障害(Somatoform Disorders)」群の一つ、抜毛症は「特定不能の衝動制御障害」に含まれていた。またためこみ行動は当時独立した診断名ではなく、OCDの症状次元の一つ(強迫観念と強迫行為のサブタイプの一つ)と見做されていた。
DSM-5(2013年)では「強迫症および関連症群」という新たな章が設けられ、OCDに加え、醜形恐怖症、抜毛症、皮膚むしり症(excoriation disorder)、 薬物/身体疾患誘発性OCRD、ためこみ症(DSM-5で新設)などが同列に分類された。つまり近年、これらの疾患は互いに関連性の高い病態群と位置づけられている。
これらの障害群は内容こそ異なれど
「不快な侵入思考や過剰なこだわり」と
「抑えがたい反復行為」
を共通の症状軸として持つ。
強迫症における不合理な恐怖観念と儀式行為、身体醜形障害における容姿への妄念と確認行動、ためこみ症における所有物への固執と収集・保持行動、抜毛症・皮膚むしり症における身体への繰り返しの操作行為――いずれも
「反復的で制御困難な行動パターン」という点で共通しており、これが強迫症および関連症群をまとめる重要な臨床特徴。
また多くは行為前に著しい不安・緊張や不快感があり、行為を遂行することで一時的にそれが緩和するという負の強化のメカニズムを共有します(例えばOCD患者が強迫行為で不安を軽減するのと同様に、抜毛症患者は毛を抜いて緊張を和らげる。
ただし病識(気づき)の程度には差があり、OCDでは多くが自分の考えが過剰だと認識する一方、身体醜形障害やためこみ症では信念が確信的で洞察が乏しい場合も少なくない。