メンタルヘルス入門
2025.09.10
うつ病は自分で気づく?こんな症状が現れた時に考えたいこと
うつ病は誰にでも起こる可能性がある心の病気ですが、自分自身では気づきにくいことが少なくありません。変調を感じても「自分は大丈夫」と思い込んだり、周囲の目を気にして不調を見過ごしたりしてしまう人も多い状況です。
うつ病は早期発見と早期治療によって回復に向かう病気のため、「もしかして自分も」と気付けるよう、うつ病の特徴などを知っておくと役立つでしょう。
この記事では、うつ病に自分で気づくためのヒントやセルフチェックの方法、症状を放置しないために考えたいポイントなどについて紹介します。自分がうつ病かどうか気になる人や、うつ病のチェックポイントなどを知りたい人はぜひ参考にしてください。
うつ病に気づきにくい理由とは
うつ病は自分では初期症状に気づきにくく、知らないうちに進行してしまう恐れのある病気です。
ここでは、うつ病に気づきにくい理由について紹介します。
うつ病の症状は多様で分かりづらい
うつ病の症状はすべて同じではなく、人によって現れ方が異なります。
気分の落ち込みや意欲低下といった精神面の症状だけでなく、頭痛や倦怠感、睡眠障害、食欲不振など、身体面の不調や行動の変化など、多様な症状を引き起こすこともある病気です。初期の段階では風邪のようなほかの病気による体調不良と似ているケースも多く、自分自身で「これはうつ病かも」と気づきにくい特徴があります。
心の不調ではなく身体の不調として現れるケースも多いため、「疲れているだけ」「軽い風邪かな」と見過ごしてしまいやすい点には注意が必要です。
「自分は大丈夫」と思い込んでしまう
うつ病になっていても、「自分は大丈夫」「自分がうつ病のはずがない」と考え、症状を軽視してしまう人も少なくありません。
日本人の約16人に1人は、生涯のうちに一度はうつ病を経験すると言われています。しかし、実際に医療機関で治療を受けているのは全体の約4分の1に過ぎず、残りの多くの人は不調を感じながらも受診せず、適切な治療を受けていないという状況です。
多くの人は自身の不調を「気のせいだ」「少し体調が悪いだけ」と思い込んで放置してしまうため、症状が悪化する傾向があります。
このように、自覚の乏しさや我慢し続けることによって、気づいた時には日常生活に支障が出るほど状態が悪くなっている場合も見られます。
周囲の目を気にして自覚を避けてしまう
うつ病に対する社会的な偏見や周囲の目を気にしすぎてしまい、うつ病の兆候を認めず、隠してしまうケースもあります。
例えば、「弱みを見せたくない」「心配をかけたくない」といった気持ちから、無理をして明るく振る舞い続ける人も多いです。しかしその結果、本人も周囲も異変に気づきにくくなり、適切なサポートが遅れてしまいかねません。
また、「自分はまだ仕事もできている」「元気に振る舞えている」という思い込みから、うつ病の自覚を持てない場合もあります。
心の内と行動とのギャップにより、本人が自分の不調を真剣に受け止められず、気づいた時には症状が進行していることも少なくありません。
日常の小さなサインを見逃しがち
うつ病の初期段階では、日常生活の中の小さな変化がサインとして現れることがあります。
例えば、以下のような変化はうつ病のサインである可能性が高いです。
- 気分や意欲の低下
- 生活リズムの乱れ
- 過食
- 涙もろくなる など
このような兆候は一見すると重大な異変ではないため、本人は「最近なんとなく調子が悪いけど、そのうちよくなるだろう」と考えて見逃してしまいがちです。しかし、変調を感じながらもそのまま放置してしまうと、症状が悪化し、日常生活に支障をきたす可能性もあります。
小さなサインであっても気になる状態が継続する場合は、軽視せずに原因を考え、メンタルクリニックの受診をおすすめします。
うつ病に自分で気づくヒント
うつ病は初期症状を見逃してしまいやすい病気です。自分で気づくためにはうつ病の特徴やサインを知っておくと役立ちます。
ここでは、うつ病に自分で気づくために知っておきたいヒントについて紹介します。
気持ちの落ち込みややる気の低下
理由もなく気分が沈みがちになったり、何をするにもやる気が出ない状態が続いていたら、「何日ほど継続しているか」を考えてみましょう。
例えば、「なんとなく心が晴れない」「常に疲れている気がする」といった状態が2週間以上続く場合、それはうつ病のサインかもしれません。普段なら興味を持っていたことにも興味がわかず、楽しめない状態が続くのも特徴です。
また、明らかな原因が思い当たらなくても気分が落ち込み、物事に対して悲観的な考えになってしまうこともあります。
このような持続的な落ち込みや意欲の低下は、単なる一時的な憂うつではなく、専門家への相談を検討するサインだと考えましょう。
食事や睡眠リズムの変化
睡眠や食事のリズムの乱れも、自分で気づける重要なヒントです。
具体的には以下のようなことを考えてみてください。
- 夜になかなか眠れない
- 夜中に何度も目が覚めてしまう
- どれだけ寝ても眠い
- 食欲がない
- 過食してしまう
- 体重が極端に増減する など
このような睡眠や食欲の変化は、心身の不調のサインであることが多いです。
単なる生活習慣の乱れと考えずに、注意深く自身の状態を見つめ直してみましょう。
好きなことへの関心が薄れる
以前は楽しめていた趣味や好きなことに興味を持てなくなるのも、うつ病のサインとして知られています。
例えば、友人と過ごす時間や趣味の活動に対しても楽しいと感じられず、心に虚無感が広がってしまう傾向があります。何をしても楽しくないために人付き合いを避けがちになったり、外出や趣味の機会が減ってしまう人も少なくありません。
もしも「なぜか分からないけど楽しく感じられない」と戸惑うことがあれば、心のエネルギーが低下して、無感動になってしまっている状態が考えられます。好きだったことへの関心が薄れ、その状態が長く続く場合には、心の不調を疑って専門家への相談を検討しましょう。
身体症状から気づくこともある
うつ病は、本人が精神的な不調に気づく前に、身体が先にサインを出していることも珍しくありません。
例えば、以下のような身体症状には注意しましょう。
- 頭痛が慢性的に続く
- めまいが起こりやすくなった
- 胃腸の不快感
- 便秘や下痢
- 肩こり
- 全身にだるさを感じる など
一見すると心の病気とは関係のないように思える身体症状ですが、うつ病のサインであることも多いです。
このような身体の不調が続き、内科などで検査を受けても特に原因が見つからない時には、心の状態にも目を向けてみましょう。
うつ病に気づくためのセルフチェック
「自分はうつ病かもしれない」と思ったものの、病院へ行くことをためらっているのなら、先にセルフチェックしてみるのもおすすめです。
ここでは、うつ病を疑った時のセルフチェックについて紹介します。ただし、あくまでセルフチェックになるため、正確な診断は必ずメンタルクリニックをはじめ、専門の医療機関で受けてください。
簡単なチェック表や質問表を試してみる
「もしかしてうつ病かもしれない」と感じたら、セルフチェックの質問票を活用してみるのもよいでしょう。
厚生労働省の「簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)」や、世界的に広く使われている「ベック抑うつ質問票」、「ツァン自己評価式抑うつ尺度(Zungの自己評価うつ尺度)」などが代表的です。
これらの質問票では、睡眠状態や食欲、気分の落ち込み具合などについて自身の状態を振り返りながら回答し、点数化することで現在のうつ状態の程度を把握できます。
ただし、これらはあくまでスクリーニングのためのツールであり、結果が高得点だった場合でも自己判断せず、必ず医師による診断が必要になります。セルフチェックでうつ病の可能性に気づいた場合には、早めに精神科や心療内科を受診し、適切な診断を受けて治療を開始しましょう。
睡眠や食事の習慣を見直す
日々の睡眠や食事といった生活習慣を振り返ってみることも、自分の心の健康状態をチェックする有効な方法です。
例えば、十分な睡眠が取れているか、食事は規則正しく栄養バランスの取れた内容になっているかを確認してみましょう。心の健康維持には、バランスの良い食事・適度な運動や趣味の時間・十分な睡眠といった健康的なライフスタイルが重要になります。
健康的なライフスタイルは、身体の健康だけではなく、ストレスの軽減にも役立つことが多いです。
もしも睡眠不足や食生活の乱れが続いている場合、それ自体がストレスになり、うつ症状を悪化させる要因にもなりかねません。まずは生活リズムを整え、自身の不調が改善するかどうかを観察してみてください。
それでも改善しない場合は、やはり専門家への相談を検討してみましょう。
ストレスの原因を書き出してみる
自分が感じているストレス要因について、紙に書き出して整理してみる方法もおすすめです。特に原因がはっきりしないまま調子を崩している時には、思い当たるストレス源を箇条書きにしてみるとよいでしょう。
日常的な小さな出来事の積み重ねが負担になっていないか、環境の変化(引越しや昇進など喜ばしい出来事も含めて)が影響していないかなど、自分の生活環境を振り返ってみましょう。
ストレスの正体が見えてくると、対処法や優先順位も理解しやすくなります。整理したストレスへの対策を考えることにより、漠然とした不安が軽減し、自分の状況を冷静に見つめ直すきっかけになるでしょう。
周囲の人のアドバイスを振り返る
うつ病は自分では気づきにくい病気のため、家族や友人、同僚など周囲の人から指摘されて初めて気づくケースも多いです。
そこで、これまでに周りの人から掛けられた言葉やアドバイスを思い出してみてください。例えば、「最近元気がないけれど大丈夫?」「少し休んだ方がいいのでは?」といった心配の声をかけられていなかったでしょうか。
もしも思い当たる言葉があるなら、それはあなた自身が気づいていない心の不調のサインを周囲が感じ取っていた可能性があります。
うつ病の治療方法
うつ病の治療では、まず心身の十分な休養を取り、必要に応じて薬物療法や精神療法を組み合わせます。
ここでは、うつ病で選択される治療法について紹介します。
休養や環境の調整
うつ病の治療では、まず心身の休養を十分に取ることが重要です。
症状が強い時期には仕事や学校を休み、自宅で静養することが勧められ、必要に応じて入院して治療に専念する場合もあります。ストレスから離れた環境で過ごすことで、つらい症状が軽減することも多く見られるためです。
無理をして悪化させてしまうと回復までに時間がかかるため、まずはしっかり休養を取ることが大切です。
薬物療法
うつ病の治療では、抗うつ薬による薬物療法も重要です。
抗うつ薬は脳内で不足している神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)の働きを改善する効果が期待できます。
落ち込んだ気分を和らげ、乱れた睡眠リズムを整えるなど、症状に合わせた薬を医師が処方します。服用を開始してもすぐに効果が現れるものではないため、自己判断で薬の量を増減させたり、中断したりせず、焦らずに治療を続けましょう。
また、うつ病では不安感や不眠、頭痛など様々な身体症状が伴うことも多いため、必要に応じて抗不安薬や睡眠薬、頭痛薬などを併用する場合もあります。
薬物療法は症状を緩和し治療を進める土台となるものですが、効果や副作用には個人差があります。疑問や不安がある時は遠慮なく医師に相談し、納得しながら治療を進めていきましょう。
精神療法
薬物療法に加えて、カウンセリングなどの精神療法も有効です。
精神療法には、患者さんの気持ちを支える支持的精神療法のほか、考え方のクセや対人関係の問題に働きかける認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)など、専門的な手法があります。
例えば、認知行動療法は「物事の捉え方」や「自分を責めてしまう思考パターン」を修正する練習を行い、ストレスへの対処法を身につける治療法です。
このような精神療法は医師やカウンセラーとの対話を通して進められる治療で、薬物療法と併用することにより、高い効果が期待できます。患者さん自身が自分の心と向き合い、対処法を身につけていくステップでもあるため、症状や希望に応じて適切な療法が選択されます。
まとめ
うつ病は自分では気づきにくいため、不調を抱えながらも治療を受けずに過ごしてしまう人が少なくありません。
しかし、症状に気づかないまま放置してしまうと、状態が悪化して治療に時間がかかる恐れもあります。「気のせい」「そのうちよくなる」と考えず、今回紹介したようなサインに思い当たるものがあれば、専門家への早めの相談が重要です。
メンタルクリニック下北沢では、うつ病において「気のせいかもしれないけど」という段階でのケアを重要視しています。症状が進み、回復に時間がかかる状態にならないように、「もしかして」と思ったらお早めにご相談ください。