メンタルヘルス入門
2025.09.10
うつ病の人がとる行動とは?注視するべきポイントと対応方法

うつ病は誰にでも起こりうる身近な病気で、よく誤解される「甘え」や「単なる気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達物質の変調が原因で起こる疾患です。
症状が重くなると自分で感情を抑えられなくなったり、希死念慮(死にたい気持ち)を抱いたりするケースもあり、放置すれば命に関わる重大な問題に発展しかねません。そのため、うつ病の人に見られる行動の変化やサインに早期に気づき、適切に対応することが大切です。
この記事では、うつ病の人がとる行動の特徴や周囲が注視すべきポイント、うつ病の人への対応方法などについて紹介します。うつ病の人の行動や対応方法について気になる人は、ぜひ参考にしてください。
うつ病の人がとる行動とは

意欲がわかず無気力になることや身だしなみへの無関心、人付き合いの回避、感情コントロールの困難といった行動面の変化は、いずれも病気による症状です。
ここでは、うつ病の人に現れやすい主な行動の特徴を紹介します。
無気力や興味の喪失
うつ病は、以前は楽しんでいた趣味や活動への興味や関心がなくなり、日常生活の中で何事にもやる気が出なくなることが代表的な特徴です。例えば、友人との外出やスポーツ観戦などに誘われても断ることが増え、好きだったゲームや読書にも関心を持たなくなります。
このような無気力や興味の喪失は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることで喜びや楽しみを感じにくくなることが原因とされています。
強い疲労感を伴うことも多く、休養を取っても疲れが取れず、簡単な家事や仕事でさえ負担に感じることも少なくありません。本人の努力や意思に関係なく起こるため、周囲が単なる怠けや気持ちの問題と受け取らず、心の病気として正しく理解することが大切です。
身だしなみや衛生管理が乱れる
身だしなみや清潔感に対する意識の低下も、うつ病で見られやすい行動変化です。うつ病になると身の回りのことに気を配るエネルギーさえ失われてしまいます。
以前は身だしなみに気を遣っていた人でも髪がぼさぼさのままだったり、無精ひげをそのままにするなど、清潔感を保つことへの関心が薄れてしまうことがあります。部屋の掃除や片付けができず、散らかった環境で過ごすようになることも少なくありません。
このように最低限の身だしなみや生活環境を整える行動すら億劫になる状態は、うつ病のサインのひとつだと言えます。
周囲との関わりを避けるようになる
うつ病になると、人と会ったり会話をしたりすること自体に負担を感じるようになり、人との交流を避けるようになる傾向が強まります。
もともと社交的だった人でも、誘いを断ることが増え、電話やメッセージへの返信もしなくなっていくことがあります。また、外出自体が億劫になり、自室に引きこもりがちになるケースも少なくありません。
このような行動の背景には、対人関係への不安や恐怖感が強まることも影響していると考えられています。
感情のコントロールが難しくなる
うつ病になると感情のコントロールが難しくなり、些細なことで突然涙があふれたり、普段は穏やかな人が急に怒りっぽくなったりすることがあります。これは感情を調整する力が弱まることによって起こるもので、感情表現が不安定になるのが特徴です。
逆に、よいことがあっても無反応で喜べなくなったり、以前楽しんでいたことにも興味を示さなかったりする場合も見られます。また、イライラや焦燥感、不安が強くなり、落ち着きを失った様子が目立つことも多いです。
周囲からは性格が変わったように映る場合もありますが、実際はうつ病による一時的な症状であり、本人の意思とは無関係に現れます。
うつ病が原因で見える様子の変化

うつ病は表情や口調、生活など、第三者が見ても「何か問題があるのでは」と思われるような変化を生じることもあります。
ここでは、うつ病によって引き起こされる見た目や様子の変化などについて紹介します。
過剰な自責や自己否定
強い罪悪感や自責の念、自己否定感は、うつ病の重要な症状のひとつです。
うつ病の人は自分を過小評価し、何でも自分のせいだと考えてしまう傾向があります。些細な失敗や過去の出来事に対しても、「自分が悪い」と必要以上に自分を責め続けるなど、強い自責感が目立ちます。
このような過剰な自責の念が強まると、「自分がいても仕方がない」などと自分の存在価値を否定する言動につながりかねません。本人は真剣にそう思い込んでしまっているため、周囲がいくら「それは違う」と説明しても受け入れられない場合もあります。
日常生活や仕事への影響
うつ病の症状は日常生活や仕事・学業に支障を及ぼします。例えば、以下のようなことがよく見られます。
- 集中力や判断力の低下
 - ミスが増える
 - 作業効率が著しく落ちる
 - 遅刻や欠勤が増える など
 
家庭でも影響が出てしまい、家事や育児など、これまで果たしていた役割をこなせなくなり、日常生活の維持が難しくなる場合も多いです。
このような社会生活上の機能低下はうつ病の重要な特徴であり、本人の生活だけではなく周囲の人々にも影響を及ぼします。うつ病による能力低下のために仕事を辞めざるを得なくなったり、学校に通えなくなるケースも懸念される状態です。
食事や睡眠の変化
うつ病では食欲や睡眠パターンに目立った変化が現れやすくなります。
食欲が極端に低下しほとんど食事を摂らなくなったり、逆に過食傾向になることもあり、短期間で体重が大きく増減する人も多いです。「お腹が空かない」「食事を作る気力がない」などの理由で食事を抜く一方、甘いものや炭水化物を衝動的に大量に摂るケースも見られます。
睡眠においても、不眠症状が多い一方で、過眠が続く人もいます。中には一日中布団から出られず、朝起きることが極端に困難になる場合もあります。
このような食事や睡眠リズムの変化は体調にも影響する恐れがあるため、できるだけ早い対応が望ましいです。
突然涙を流すなど感情の表し方の変化
うつ病の人には、些細なことで涙もろくなるという変化もよく見られます。例えば、以下のような言動が代表的です。
- 急に泣き出すことが増えた
 - 感動する場面で過度に涙ぐむ など
 
実際、うつ病では情動をコントロールする脳の働きが低下するため、本人の意思に関わらず涙が出てしまうことがあります。
一方で、喜怒哀楽の反応が乏しくなる場合もあります。嬉しいことがあっても表情が晴れず、周囲から見ると無表情・無反応に見えることがあります。これも感情を感じる力自体が低下しているためで、決して本人がわざと無視しているわけではありません。
うつ病の人が周囲に見せるサイン

うつ病の人の変化は、周囲の人にも「いつもと違う」と気付かれることが少なくありません。
ここでは、家族や友人など周囲にいる人が気付きやすいうつ病のサインについて紹介します。
返事や表情が乏しくなる
うつ病になると、表情や反応に活気がなくなり、顔つきがどんよりとして、笑顔が減るのが特徴です。
声も小さく抑揚がなくなり、話しかけても返事が遅かったり、言葉数が極端に少なくなる場合があります。このような変化によってコミュニケーションが取りづらくなり、周囲も戸惑いを感じるでしょう。
しかし、このような状態は病気による症状であり、本人がわざと周囲を避けているわけではないことを理解し、適切な対応をしていきましょう。
自分を責めるネガティブな言葉が増える
うつ病になると、口にする言葉にもネガティブな内容が増えてきます。
具体的には、以下のような言葉を使うようになる可能性が高いです。
- 自分はダメな人間だ
 - どうせ自分なんて
 - 自分のせいで
 - 自分なんかいなければいい など
 
このような自己否定的・自己卑下的な発言が目立つようになるのは、うつ病特有の思考の偏りによるものです。
周囲から見ても、本人が何かにつけて自分を責めてばかりいるように感じられるでしょう。
仕事や学校を休むようになる
欠勤や遅刻が増えるのも、周囲が気づきやすいサインです。
うつ病の人は朝起きることが辛くなり、職場や学校をよく休むようになる傾向があります。これは不眠や過眠による睡眠リズムの乱れや、布団から出る気力が湧かないことなどが原因になっているケースが多いです。
最初のうちは「頭痛がする」「体調が悪い」と体調不良を理由に休むかもしれませんが、症状が進行すると次第に理由をはっきり言えなくなったり、連絡さえしなくなるケースもあります。
周囲からすれば「怠けているのではないか」と誤解しやすいポイントですが、実際には心身のエネルギーが著しく低下している状態であり、本人の努力だけではどうにもならない状況です。
体調不良を訴えることが増える
うつ病の人は身体の不調を頻繁に口にすることも少なくありません。
もともと心の病気ですが、頭痛・めまい・食欲不振・倦怠感など様々な身体症状が現れることがあり、本人も自覚する体調不良として訴えるケースが多くなります。
また、社交的だった人が人付き合いを避ける口実として「体調が悪い」「疲れている」といった理由を使う場合もあるでしょう。例えば、毎週会っていた友人の誘いに対し、「今日は体調が優れなくて…」と断ることが増えたり、「今回はやめておくよ」と具体的な理由を言わずに断るようになったりすることがあります。
このような言動が増えたら、単なる体調不良ではなく、心の不調の可能性を考えるタイミングです。
うつ病の人への対応やサポート

身近な人がうつ病の兆候を見せている場合、周囲の適切な対応とサポートが回復を進める一助になります。
ここでは、うつ病の人に接する際のポイントや支援の方法などについて紹介します。
うつ病について理解する
まず、うつ病という病気を正しく理解しましょう。
うつ病は脳内の神経伝達物質の不調によって引き起こされる疾患であり、決して本人の甘えや怠けではありません。
病気によって意欲や思考力が低下し、自分ではどうにもできない状態に陥っていることを周囲が理解する必要があります。この理解があるだけで、接し方に大きな違いが生まれるでしょう。
例えば、うつ病の人に接する際、「怠けている」「気の持ちようだ」などと考えていると、誤った対応をしてしまいかねません。実際には、うつ病の人の行動は病気の症状として現れているものであり、本人の性格や努力不足の問題ではないことを理解しておきましょう。
困った時には公的機関を頼る
うつ病が疑われる場合は、家族や友人だけで抱え込まず、早めに専門の医療機関や公的な相談先を利用しましょう。
例えば、以下のような場所があります。
- メンタルクリニック
 - 精神保健福祉センター
 - 保健所
 - 民間の相談窓口 など
 
どこに相談すればよいか分からない場合は、かかりつけ医や自治体の心の健康相談窓口などに問い合わせてください。
専門家に相談することで、診断や治療をはじめ、家族がどのように支えればよいかなど具体的なアドバイスも受けられます。
日常生活の負担を減らす環境作り
うつ病の人を支える際は、快適に休める環境づくりと日常の負担軽減を意識しましょう。
例えば、以下のようなことがおすすめです。
- リラックスできる部屋にする
 - 睡眠環境に配慮する
 - 家事の負担を減らす、休ませる
 - 業務量を調整する
 
ただし、すべてを取り上げてしまうのではなく、本人が無理なくできることであれば少し任せ、達成感を得られるように支援することも重要です。
こうした段階的な配慮が回復への助けになるでしょう。
相手を否定しない
うつ病の人への対応で最も大切なのは、相手の気持ちや考えを決して否定しないことです。
本人が「つらい」と感じている場合、その感情を否定せず、まずは「つらいんだね」と受け止めてあげましょう。「考えすぎ」「甘えているだけ」といった安易な否定や、「頑張れ」「気のせいだよ」といった励ましは、本人をさらに追い詰めてしまいやすいため、避けるべきです。
否定せずに受け止めてくれる人の存在は、うつ病の人にとって大きな安心感と支えになります。
まとめ
うつ病の人が見せる行動は、コミュニケーションの変化、生活リズムの乱れ、仕事や学業の能率低下など、多岐にわたります。無気力や感情の不安定さ、思考力の低下などが目立ちますが、わざとではなく、病気による影響が表れたものです。
うつ病は適切な治療によって回復可能な病気です。もしも身近な人の様子が「いつもと違う」と感じた時は、早めに専門機関へ相談しましょう。
メンタルクリニック下北沢では、「家族や友人がうつ病かもしれない、相談したい」と考えている方にも対応可能です。身近な人の変化に気付き、「うつ病かもしれない」と対応にお悩みの方は、一度当院へご相談ください。